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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)1548号 判決 1963年12月23日

判   決

東東都港区芝田村町一の三飛行館内

原告兼反訴被告(以下原告と称す)

興民運輸株式会社

各代表者取締役

津川秀雄

同豊島区駒込六丁目六〇一番地小高方

原告兼反訴被告(以下原告と称す)

桜井宣男

右両名訴訟代理人弁護士

横田武

同都港区芝公園五号地十五番地

被告兼反訴原告(以下被告と称す)

本木正人

右訴訟代理人弁護士

吉沢祐三郎

主文

1、被告は、原告興民運輸株式会社に対し金一、七〇五、二〇二円およびこれに対する昭和三七年三月一五日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の割合の金員を支払え。

2、被告は、原告桜井宣男に対し金一、一三九、八二〇円およびこれに対する昭和三八年七月二日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の割合の金員を支払え。

3、原告桜井宣男のその余の請求および被告の反訴請求を棄却する。

4、本訴及び反訴の訴訟費用は金一、〇〇〇円(本訴の印紙代中)を除いてすべて被告の負担とし、右一、〇〇〇円は原告桜井宣男の負担とする。

5、この判決は、第一、二項に限り、仮りに執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人は、「1、被告は、原告会社に対し一、七〇五二〇二円およびこれに対する昭和三七年三月一五日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の割合の金員を支払え。2、被告は、原告桜井宣男に対し一、三四三、四一三円ならびにこれに対する昭和三八年七月二日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の割合の金員を支払え。3、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、反訴につき「1、反訴原告の請求を棄却する。2、反訴費用は反訴原告の負担とする。」との判決を求め、本訴の請求原因および反訴の答弁として、つぎのとおり陳述した。

(事故の発生)

一、原告桜井宣男は、昭和三六年一月一七日午後一一時四〇分頃乗用自動車(五け―二六七号、以下原告車という)に訴外伊藤元顕、曾我房子、加藤マリ子を乗せ、京橋から新橋にいたる電車通りを進行し、中央区銀座三丁目一番地東京銀行銀座支店前にさしかかつた際、新橋方面に向つて進行してくる被告運転の乗用自動車(五―四九四七号、以上被告車と称す)に接触し、原告車に破損を生じ、乗客伊藤元顕は頭蓋骨骨折、左眼骨折等、曾我房子は頭部及び腹部打撲、加藤マリ子は顔面及び足首打撲等の重大な傷害をうけた外、原告桜井もまた上唇下唇裂傷、上下 歯牙破損、上下 歯槽骨紛砕骨折、右眼外傷性震症等の傷害をうけた。

(責任原因)

二、(一)右事故発生の原因は、被告が被告車を運転して銀座から京橋方面に進行してきた際、前方を並列して進行していた他の二台の自動車を追い越すため、その右側に出て進行していたところ、前方の並進車のうち右側の自動車に接触しそうになつたのであわててハンドルを右に切つた為道路の中央線を突破して暴走し、反対方面を進行してきた原告車に衝突することとなつたからである。これはまさに被告において道路交通法二九条に定める二重追越の禁止を犯して同法二八条に定める反対方向からの交通に対する十分の注意を欠き、左側通行の原則を紊し、安全運転の義務を尽さなかつたものであつて、運転上の過失を犯したものに外ならない。

(二) また被告車は、被告の所有に属するものであつて、被告は友人をのせて銀座に出かけたのであるから、被告は被告車を自己のために運行の用に供し、該運行によつて右事故を起したものである。

したがつて、被告は、後段各損害のうち自動車破損による損害については民法七〇九条の規定によつて、人身傷害による損害については自動車損害賠償保障法三条本文の規定によつてそれぞれ賠償の責に任じなければならない。

(損害)

三、本件事故による損害はつぎのとおりである。

(一)  原告会社関係

(1)  破損した原告車は、原告会社の所有に属するところ、原告会社はこれが修理のため三五五、二〇二円の支出を余儀なくされ、同額の損害をうけた。

(2)  原告車は原告会社のタクシー営業のために運行されていたものであり、訴外伊藤元顕外二名はいずれもその乗客であつたが、タクシー営業者と顧客という関係からこの三名が本件事故による受傷によつてうけた治療等による損害の賠償につき原告は被告のために種々接衝し、一二〇万円で一切を打ち切る旨示談を遂げ、立替えをした(事務管理)。

(3)  原告桜井は、右のように原告会社に雇われている運転手として本件事故に遭つたものであるが、昭和三七年二月以降同年六月まで事故による負傷のため全然就労することができなかつたけれども、原告会社は、就業規則の定めにより原告桜井に対し生活費の一部としてその間一五万円の支給を余儀なくされ、同額の損害をこうむつた。

(二)  原告桜井宣男関係

(1) 折損した歯一七本の入れ歯、全身各所打撲等の傷害の治療等のために原告桜井がうけた苦痛は甚だ大きいものがあつたが、眼の障害は後遺として胎り、物が二重に見え右眼に中心暗点を生じ、今後自動車運転手として営業用車の運転に従事することが不可能となり、ために原告桜井は、長年築き上げた運転手としての経験と生活上の保障を一挙にうしない、いまなお失業状能にあり、新に生活の恐威にさらされることとなつた。この間の事情によつて考えるときは、被告は同原告に対し相当額の慰藉料を支払うべきものであつて、その額は一二〇万円とするのが相当である。

(2)  原告桜井は、右負傷により、就労することができず、昭和三七年一一月末日限り、原告会社を退職のやむなきに至つたが、受傷後昭和三八年五月までの間につぎのとおり一四三、四一三円の損害をうけた。

Ⅰ 在職中の給与上の損失六七四、五〇八円

(イ) 36年1月分(36.1.18〜36.1.20) 36,759円×3/31=3,557円

(ロ) 36年2月分(36.1.21−36.2.20) 36,759円−6,500円=30,259円

(ハ) 36年3月分(36.2.21−36.3.20) 36,759円−8,500円=28,259円

(ニ) 36年4月〜37.6月分(36.3.21〜37.6.20)(36,759円−9,000円)×15=416,385円

(ホ) 37年7月−37年11月分(37.6.21−37.11.20)36,759円×5=183,795円

(ヘ) 37年12月分(37.11.20−37.11.30)36,759×10/30=12,253円

Ⅱ 退職後の給与相当額の損失 一九〇、五五四円

37.12.1〜38.5.3(36,759円−5,000(失業保険金))×6=190,554円

Ⅲ 賞与相当額の損失事故発生後昭和三七年一一月末日までの間毎年六月、一二月に一回について三四〇六五円として計七四六四五円(34,065円−27,550円)+(34,065円×2)=74,645円

以上合計九三九、七〇七円に対し休業並びに療養補償として金七九六、二九四円を給付されたから結局前記のとおり一四三、四一三円の損害となる。

四、よつて原告会社は、被告に対し前記損害金と立替金の合計一、七〇五、二〇三円およびこれに対する本件訴状送達の後である昭和三七年三月一五日以降右支払ずみにいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求め、原告桜井は、被告に対し前記損害金の合計一、三四三、四一三円およびこれに対する弁済期の後である昭和三八年七月二日以降右支払ずみにいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

五、被告主張の本件事故が原告等の過失にもとづくとの点は否認する、原告車にも構造上の欠陥、機能障害はなかつたのである。被告主張第五項のうち(一)(二)(四)は知らない。同(三)は否認する。

したがつて、反訴請求に応ずることはできない。

被告訴訟代理人は、本訴につき「1、原告らの請求を棄却する。2、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め反訴につき「1、反訴被告等は、各自、反訴原告に対し一、三〇六、一七二円およびこれに対する昭和三七年四月二八日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の金員を支払え。2、反訴費用は反訴被告等の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、本訴の答弁および反訴の請求原因として、つぎのとおり述べた。

一、請求原因第一項の事実は自動車の破損及び人身傷害の点を除いて認める。自動車の破損及び人身傷害の点は知らない。

二、請求原因第二項の事実は否認する。本件事故は被告の過失にもとづくものでなく、原告桜井の過失にもとづくものである。即ち、被告車は、本件事故現場の手前銀座三丁目交叉点で赤信号にしたがい、左側ライトバンの自動車、更にその側ダツジ乗用車と並列して停車し、信号が青に変るや、直に右二台の自動車と並んで約四〇粁の速度で京橋方面に向つたところ、最左側のダツジの運転手市川が(a)泥酔しており、かつ(b)右側のライトバンの若い女及び歩道上の酔払いに気をとられて運転を誤り、ライトバンに激突したために、ライトバンが被告車の左側に追突することとなつた。ライトバンの追突をうけた被告は、無意識でハンドルを右に切つたが、その瞬間原告車と被告車とが衝突したのである。原告桜井としては、他に並行する車があつたわけではないから、当然車道の中央を進行して安全を期すべきであつたのに殊更に電車軌道内を進行し、その速度は制限の四〇粁を超えて五〇乃至六〇粁に及び、しかも前方注視を怠つために本件事故となつた。本件事故の第一の責任者はダツジ運転手市川であり、第二の責任者は原告桜井であつて、被告にとつては不可抗力の事故といわなければならない。

三、請求原因第三項の事実は知らない。

四、前叙の如く本件事故は、原告桜井の過失によつて生じたものであるが、原告桜井は、原告会社のタクシー営業のために原告車を運転していた途中で本件事故を起したのであるから、原告桜井は、後段被告がこうむつた損害について、民法七〇九条の規定によつて、原告会社は右損害のうち人身傷害によるものについては自賠法三条の規定によつて、自動車破損によるものについては民法七一五条の規定によつてこれを賠償すべき義務あるものである。

五、本件事故によつて被告がうけた損害はつぎのとおりである。

(一)  被告車の修理代として四〇七、八九四円の支出をしたが、そのうち任意の自動車損害保険により顛補された額を除いた一二一、四九七円

(二)  被告は右膝蓋骨骨折の傷害をうけ、治療のため即日京橋病院に入院し、同月二〇日前田外科病院(港区赤坂伝馬町一の二〇)に転院して同年三月七日退院し、同年四月一七日から同月二五日まで同病院に再度入院し、退院後は通院してマツサージ治療をうけ、入院治療費、看護料、通院の自動車賃等合計一三三、二三五円の支払をして同額の損害をうけた。

(三)  慰藉料 被告は右のように治療につとめたが、右膝関節は約六〇糎までしか屈曲できず、右大腿部は左大腿部より約二、五糎位細く、十分な活動ができない。

更に被告は本件事故のため大学受験を断念しなければならなくなり、将来を思う時精神的苦痛はまことに大きい。これらを斟酌するときは、被告がうけるべき慰藉料の額は一〇〇万円が相当である。

(四)  被告車に同乗していた訴外須永力夫は前額部及び顔面挫創の傷害をうけ、事故当日から同年二月一〇日まで京橋病院に入院して治療に従つた。原告は、その入院治療費に相当する五一、四四〇円を見舞金として贈り、同額の損害をうけた。

六、そこで、被告は、原告らに対し以上の合計一、三〇六、一七二円とこれに対する本件反訴状送達の後である昭和三七年四月二八日以降完済にいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求めるため反訴に及んだ。

立証関係≪省略≫

理由

本訴及び反訴について判断する。

一、本訴の請求原因第一項の事実のうち原告車破損および人身傷害の点を除くその余は全部当事者間に争がなく、原告車が破損し、訴外伊藤元顕、同曾我房子、同加藤マリ子および原告桜井がそれぞれ傷害をうけたことが原告主張のとおりであることは、(書証―省略)の各記載によつてこれを認めることができ、格別反対証拠はない。

二、(一)右事故が原告主張のとおり、被告が被告車を運転して電車軌道の左側を銀座から京橋方面に進行してきた際前方を並列して進行していた他の二台の自動車(左側は訴外市川健造運転のライトバン車、右側は氏名不詳者運転のダツジ乗用車)を追い越すため、その右側に出て進行したところ、前方進行中のダツジ車に軽く接触し、あわててハンドルを右に切つた為都電軌道左側線を右側に突破して暴走し、反対方向を都電軌道外側線を僅かに跨ぐようにして進行してきた原告車に衝突することによつて発生したものであることは、(証拠―省略)に照してこれを認めることができる。この事実からすれば、まさに被告本木は、道路交通法二九条一項に定める後車は、前方にある自動車又はトロリーバスが他の自動車等と並進しているときは、追越しをしてはならない、という規定に違反し、前方を並進していたライトバン車とダツジ乗用車とを追越そうとしたものであり、また同法二八条三項に定める追越しをしようとする車輛は、反対の方向からの交通および前車又は路面電車の前方の交通にも十分に注意し、かつ前車又は路面電車の速度及び進路並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならないという規定に違反して対向車があるにもかかわらず進行方向の右方にハンドルを切つたために反対方向から進行してきた原告車に接触したものであり、自動車運転上の過失を犯したものというべきである。

被告は、この事故は原告の過失にもとずくものであり、被告の過失にもとづくものでない旨を主張しているから被告車の右認定の過失の外に原告車に過失かあつたか、否かを考えるに、(証拠―省略)によれば、原告桜井は、原告車を運転して京橋方面から進行し、新橋方面に向つている銀座二丁目の都電停留所を左にみて通りすぎてから幾らか左に寄つたが右側車輛が都電の一番左の軌道を跨いで進行している最中に本件事故に遭つたものであることを認めることができるから、格別原告車の進路のとり方に過失があつたとはいえない。たとえ、被告主張のように被告車の左前方のダツジ乗用車又はライトバン車の運転者に酔払い等のため運転上の過失があつて、それが、本件事故に若干の影響を与えたとしても、既に認定したように被告の運転上の過失として動かすことのできないものを二点までも指摘することができる以上、被告以外の第三者の過失をもつて被告の運転による事故の責任を免ずることができないのである。

(二) (証拠―省略)によれば本件事故を起した被告の運転車は、被告の所有であつて、被告が友人の家で麻雀遊転をした後、ともに夜食をするため友人を乗せて銀座方面に出かける途中で本件事故に遭つたことを認めることができるから、まさに被告は被告車を自己の為に運行の用に供したものであり、本件事故は該運行によつて生じたものというべきである。

(三) したがつて、被告は、後段各損害のうち自動車破損による損害については民法七〇九条の規定によつて、各被害者の身体傷害による損害については自動車損害賠償保償法三条本文の規定によつてそれぞれ賠償の責に任じなければならない。

三、そこで、本件事故による各損害について判断する。

(一)  原告会社関係

(1)、原告会社がその主張のとおり原告車の破損による損害(金三五五、二〇二円)をうけたことは、(証拠―省略)によつてこれを認めることができ、反対の証拠はない。

(2)、原告車が原告会社のタクシー営業のために運行されていたものであり、被害者たる訴外伊藤元顕他二名がいずれもその乗客であり、タクシー営業者とその顧客という関係から、原告会社が自らこの三名のうけた治療等による損害の賠償についてその法律上の責任の正確な帰趨はともかくとして解決のために種々折衝し、一二〇万円で一切を打ち切る旨示談をとげ、その支払をしたことは、(証拠―省略)によつてこれを認めることができる。前段認定の事実から推論すれば、これら傷害による損害については被告がその責に任ずべきものであること明かであるが、(証拠―省略)によれば、初には被告をも加えてその折衝をしたのであつたけれども、被告において責任を回避して示談に至らせようとしなかつたので、原告としては営業政策上の配慮もあつてやむなくこのようにして局を結ばざるをえなかつたものであることを認めることができ、これに反する被告の本人尋問の結果は措信しない、とすれば、この点において原告会社と被告との間には事務管理が成立しているものというべく、示談金額を不当とする格別の事情も認められないから、被告は原告会社に対し支払われたその示談金の償還をすべき義務あること明白である。

(3)、原告桜井においては原告会社に営業用運転手として雇われ、就労中本件事故に遭遇したのであつたため、原告会社が就業規則の定により原告桜井に対し昭和三七年二月以降同年六月に至るまで生活費の一部として合計一五万円の支払をしたことは(証拠―省略)によつてこれを認めることができる。原告会社のこの支出は、素より就業規則の定めに従つたものであるけれども、前認定のとおり被告の責に帰すべき事由たる本件事故にもとづき、これを余儀なくされたものであつたというべきであり、またタクシー営業会社の一般的実状からすればかかる就業規則の存在はこれを特別事態というべきでなく、むしろ通常の事態というべきであるから、通常の損害というべきである。

(二)  原告桜井宣男の関係

(1)、慰藉料 原告桜井の本人尋問の結果によれば、同原告についてその主張の如き肉体的精神的苦痛を生じたことが認められ、この事情によつて考えるときは、その慰藉料の額は、原告の主張にかかわらず、金一〇〇万円をもつて相当と認める。

(2)、(証拠―省略)によれば、原告が昭和三五年七月から同年一二月までの六月間にうけた給与の所得総額は二二〇、五五二円であつて、一ケ月について平均三六、七五九円となることを認めることができる。

Ⅰ 在職中の給与上の損失について

(イ) 昭和三六年一月分の給与上の損失が原告主張のとおり三、五五七円であることはこれを認める証拠がない。けだし、右認定のとおり昭和三六年一月分も前月同様三六、七五九円であると推認されるにもかかわらず、(書証―省略)によれば、原告会社が原告桜井に実際に支給した給与の額は三七、一一六円であつたと認められるところによりすれば、給与所得の減少どころか増加が認められるからである。

(ロ) ないし(ヘ)の原告の減収の事実は、前段認定の事故前の原告桜井の給与所得(月平均三六、七五九円)による収入と前記(書証―省略)によつて認めることができる実際の給与所得による収入とによつて計算するときは、原告主張の六七〇、九五一円となることをみとめることができ、反対の証拠はない。

Ⅱ 退職後の昭和三七年一二月一日以降昭和三八年五月末日に至る間の給与相当額の損失が原告主張のとおり一九〇、五五四円となることは、前記(書証―省略)の記載と前段認定の原告桜井の被害当時の収入とによつて認めることができ、反対の証拠はない。

Ⅲ 本件事故発生後昭和三七年一一月末日退職まで原告桜井は原告会社から毎年六月、一三月に一回について三四、〇六五円の割合で計一〇二、一九五円の賞与をうけるべきであつたのに、実際には昭和三六年上期の賞与二七、五五円をえたに過ぎなかつたので原告主張のとおり七四、六四五円の賞与収入減となつたこともまた前記(書証―省略)の記載によつて認めることができ、反対の証拠はない。

してみると、原告桜井がうけた損害は右認定にかかる合計金九三六、一五〇円となり、これを超える旨の原告桜井の主張は理由がないわけであるが、労災保険から休業補償及び傷害補償として金七九六、二九四円の給付をうけたことは原告桜井の自陳するところであるから、同原告のうけた損害は結局一三九、八五六円となるわけである。

四、よつて、原告会社の被告に対する前記損害金と立替金の合計一七〇五、二〇二円およびこれに対する本件訴状送達の後である昭和三七年三月一五日以降支払ずみにいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める本訴請求並びに原告桜井の被告に対する前記慰藉料、損害金の合計一、一三九、八五六円およびこれに対する弁済期(請求の陳述をした口頭弁論期日)の後である昭和三八年七月二日以降右支払ずみにいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金を求める部分はいずれも正当として認容すべきであるが、これを超える部分は理由なく失当として棄却すべきである。

五、なお、被告は自らも本件事故によつて合計一、三〇六、一七二円の損害をうけ、原告らはその賠償をすべき義務ある旨を反訴をもつて主張しているけれども、本件事故が被告主張の如く原告桜井の過失にもとずいて生じたものでなく、前段認定のとおり、もつぱら被告自身の過失ないしはダツジ車またはライトバン車の各運転手の過失にもとずいて生じたものであつて、原告車の構造上の欠陥または機能障碍によつて生じたものといえないことの明かな本件にあつては、被告の反訴請求は理由がなく、全部棄却を免れないのである。

六、以上の次第であるから、本訴及び反訴の訴訟費用について民訴八九条、九二条の各規定を、仮執行の宣言について同一九六条一項の規定を適用し、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二七部

裁判官 小 川 善 吉

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